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神谷宗幣 (かみやソウヘイ)
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ブータン視察(平成30年8月20~25日)

最近の動向, 視察・研修報告 |

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2011年に国王が来日されてからずっといってみたかった国、ブータン。

GNH(国民総幸福量)という「国民全体の幸福度」を示す“尺度”をつくっているということに
大きな関心を持ったからです。

ネットで調べても賛否両論あるので、一度自分で体感してみたいという気持ちがありました。
そこにきて、昨年、友人が2度ブータンに行っており、
非常に精神性の高い青年に会ったという話をしてくれたので、
つてがあるならお願いしたいということで、今回の訪問となりました。
知りたかったポイントはGNHと教育について。

今回は特にこの2つのポイントに絞って報告をまとめたいと思います。


訪問初日

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初日は2007年に設立された
王室教育委員会 副委員長の
ヘンルプ ドゥパさんのお話をお聞きしました。

王室教育委員会とは、日本の文科省のような役割をしていて、教育のカリキュラムづくりや教員育成を担っています。

ブータンでは、10年の初等教育がありますが、それは義務ではありません。

各自の選択で教育を大学まで無償でうけることができます。

ブータンの教育には
普通教育と僧侶になる教育、社会人教育の三つがあるそうです。

普通教育を受けない人は、社会人になってから学ぶこともできるんですね。

一般的な普通教育を受ける子供たちの課題は
卒業後に公務員やサラリーマンにはなれても
自身で会社を起こすような人材が生まれないことだとおっしゃってました。

教育で大切にしているのは、
生徒一人一人に価値観の軸をもたせること。

価値観の中には、
健康や食事、仏教的な教えも含まれるとのこと。

それらを包括するものとしてGNHの考え方があり、
詳しくは後日政府の担当者から聞いてほしいとの前置きをして、
ヘンルプさんの考えるGNHについて説明するならば、

「あなたの幸せが私の幸せ」

ということだと。

つまり、自分の幸せだけを
考えていても幸せにはなれない。

他人や社会全体の幸せのために
生きていれば、自ずと幸せになる。

こんな話を聞いて、私は感動しました。

それは言葉にではなく、
ヘンルプさんが信念から我々に思いを伝えてくれたからです。

人は不思議なもので、言葉は違っても
表情や立ち振る舞い、声のトーンからわかるんですね。

ヘンルプさんの人格の高さに私は感動したのです。

そして、それは私だけではなく、
一緒にいた何人もが同じ感覚になっていたことを後で確認しました。

「あなたの幸せが私の幸せ」

と感じられる人を育てたいと
心から思っている教育者が日本にどれだけ残っているかと考えました。
後半の質問でメンバーから出たのは、
「ブータンではどうやって愛国心をおしえるのですか」というものでした。

回答は、学校のカリキュラムには特別に入れていないが、国王を含む国の偉い人たちが、
いつもスピーチで国の大切さを語っているから国民は良く分かっているというものでした。

ほかには、
「テレビゲームやSNSは中毒性があり、
子供には毒になると思うがどんな対策をしているのか」という質問がありました、

これには、
まさにその通りだと思うが、今の時代それを禁止しても防ぎきれるものではないから、
その問題点をしっかり子供たちに伝えている。

氾濫するメディアの情報についても問題があるので、それも教えており、
ブータンでは青年どおしがそうした社会問題を話し合って、さらに若い世代に伝えるという取り組みもある、
とのことでした。

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最後に、私がまとめとして聞いたのは、
「どんなブータン人を育成したいかを、一言で言うとどうなりますか」
ということでした。

それに対しては、
「己の価値観に基づいて生きられる人間を育てたい」ということでした。

ブータンは、
私が訪問した70を超える国の中でも
経済的にはかなり下の方の国ですが、
経済のレベルと人や教育の質は比例しないという当たり前のことを教わる貴重なインタビューでした。

 

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午後にはブータンでも5本の指に入るという高僧の
ゲノワンチュさんと懇談させて頂きました。

ブータンは仏教国ですが、その流れはチベットから来ています。

お坊さんだけではなく、一般の国民も虫すら殺しません。

よって農業には農薬なども一切使わないという話がありました。

懇談の中で一番印象に残ったのは

3つの毒のお話です。

3つの毒とは

欲望
嫌う気持ち
無知

これらをコントロールすることが
修行の目的の一つというのです。
日本は毒だらけですね。

日本も150年も遡れば、こんなことを言う方が
そこそこいらっしゃったと思います。

考えさせられました。

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その後は 、第3代国王記念仏塔であるメモリアル・チョルテンや
ブータンの政治と宗教を司る、国の中央政庁であるこのタシチョ・ゾンを訪問しました。

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ここには国王のオフィスと、仏教の最高権威であるジェ・ケンポ大僧正の部屋があります。

 

 

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2日目はGNHの勉強をしました。

レクチャーをしてくださったのはGNH委員会の分析官の方です。

こちらの委員会は1998年に設立。
メンバーは11人おられ、政治政策、文化、GNHを研究されています。

GNHは1972年に第4代国王が提唱された国の目標ですが、
そのルーツは18世紀にチベットから伝わった仏教にあります。

根幹にある理念は
「政府の仕事は国民を幸せにすること」だとのこと。

まさにしらす国の大御宝として
国民をとらえたかつての日本と同じですね。

GNHの目標は、2008年に憲法にも明記されたとのことでした。

かつてはGNHの指標として
経済成長
環境
文化
良い政治
の4つが定められていましたが、

今はさらに細分化し、
生活水準、食と健康、教育
政治、ワークライフバランス、人間関係
など9項目にわけて、
五年おきに国勢調査をしているとのことでした。

私は不勉強でGNHは
もっと抽象的な目標だと思っていたので、細かい項目で
データ化していることに感心しました。
また、GNHを考える時には、幸せな人生とは何かも考える必要があります。

そこでは、【誕生、生きる期間、死】と三つのステージでの幸せを考えて制度設計をしているときき、驚かされました。

日本では生きるところしか考えられていないように思います。
また、分析官の方は以下のことを教えてくれました。

海外の方は「ブータンは世界一幸せな国、 世界の桃源郷だ」というイメージをもってブータンにこられますが、ブータンは世界一幸せな国ではありません。

ただの発展途上国です。

しかし、ブータンがほかの途上国と違うのは、政府が経済的発展だけを目標にしていないということです。

どこの国も経済的発展はできても国民が本当に幸せになっているかというとそうではない。
ブータンは同じ失敗をしたくないと思っています。

このほか国民の本当の幸せを追求するために、ブータンでは政府だけではなく、
民間企業にもGNHの向上にむけて取り組みを要請していると説明を受けました。

詳しく話すと膨大な量になるので、
興味のある方はまた報告会などで聞いてください。

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レクチャーの後は、
子供たちが学ぶ僧院を訪問し、
ティンプーからプナカヘ移動し、
プナカのゾン(要塞)も訪問しました!

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3日目は前日にお世話になった尼寺を全員で訪問し、
お借りした傘を返して、寄付をしました。

次に向かったのはウゲン アカデミー。

こちらは1100名以上が在籍する中高一貫の私立学校で、ブータンでも五本の指に入る名門校です。

学校を訪問すると、校長室に通されて、校長先生と懇談をさせていただきました。

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まず、最初に聞いたのはこの学校の教育理念です。

校長先生曰く、
それは「最善の自分を目指すこと」だそうです。

「偏差値を上げるとか、よい職業につくとかそんなことは大切なことではない。

人それぞれ分があり、誰もがプロサッカー選手にはなれない。

しかし、サッカーのロナウドでもあなたにはなれない。
あなたにはあなたしかできないことがある。

人と競争しても意味がない。自分のライバルは自分。
だから、自分の天分をみつけ、
より良い自分を目指すことを教えている。」

と熱いメッセージからスタートしました。
この理念に基づき、先生方は日常生活のなかで生徒の良い点をメモに取り、いくつか集まると表彰をするそうです。

ゴミをよくひらう
グループをまとめる
人に親切にする
勉強がよくできる

そうしたことを並列に評価するんですね。
また、校長先生は子供たちに
「日本人をお手本にしなさい」
と教えているとも話してくれました。

ちゃんと掃除をする
ルールを守る
勤勉に働く

といったことに加え、

震災で被災しても
秩序を維持できる日本人は凄いと!

生徒には韓国から来た子もいて
首をかしげることもあるそうですが、
先生はいい続けていくとおっしゃってました。
懇談の最後に
校長先生がおっしゃっていたのは、
成績の良い子ではなく、自分の頭で考え、判断する人材を
育成したいということでした。

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続いては授業見学。
最初に中一クラスにいきました。

我々が最初にした質問は、
「お父さん、お母さんを尊敬してますか?」
ということ。

当然、全員がはい、といってくれました。

次に夢がありますか、と聞くと、
医者になりたい、宇宙飛行士になりたい、
と答えてくれます。

子供たちの日本への1番の関心はアニメです。
アニメから日本語も学んで子供たちは日本語も少し話せます。
子供たちがブータンの歌を歌ってくれたので、我々はお礼に「君が代」を歌いました。

歌おうとすると子供たちは自然に全員が起立します。

国際儀礼をちゃんと知っていますね。
さらに、中3クラスにいきました。

男子に聞きたいと前置きして
「もし、ブータンが外国から攻められたらあなたは戦いますか」と聞くと、、、

女子から先に手を上げてくれ、
全体の7割くらいが手をあげてくれました。

日本の学生に聞くと2割もあげないんですよ、というとびっくりしてました。

学生から我々への質問は、

「日本の宗教はなんですか?」

「日本にもブータンのGNHのような
国民が共有する哲学はありますか?」

というものでした。
宗教に関しては、神道と仏教の話をしましたが、

国民が共有する哲学については、

「個人的な哲学はそれぞれにあるが、日本は第二次世界大戦で
アメリカと戦い、敗れ、国民が共有する哲学は残念ながらなくなった」

と伝えました。

ブータンの子供たちも第二次世界大戦のことは
知っているようで、私がこの話をすると一気に表情が変わりました。
宗教や哲学を中3が聞いてくるのには参りました。
あと、学校を回っていて感じたのは校長先生の権威です。

校長先生が教室に入った瞬間の先生と生徒の引き締り方は、
いろんな国の学校をみてきましたが、今回が一番だったかもしれません。

昔は日本もこんな感じでしたよね。

大人や団体の長に対してちゃんと尊敬があったと思います。

校長先生が「ブータンには100年以上前の日本が残っていると思いますよ」

とおっしゃってましたが、本当にそう感じました。

ヨーロッパの学校スタイルとは全然違いますが、私は先生や大人にはやはり権威がないといけないと感じました。

あとで聞くと、
校長先生は国王からも認められた位のある偉い先生だそうです。

ブータンは国民の国王への尊敬が半端ではありません。

民主化したとはいえ、国のリーダーをみんなで敬える国民はやはり幸せです。

その方がまた下に権威を委譲し、そこに秩序が生まれる。

かつての日本もこんな感じだったのかと想像しながらの視察でした。

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学校の後はチミ・ラカンという子宝寺を訪問。

 

その後はパロに移動し、民泊をさせてもらいました。

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なんとこのお家、築300年以上だそうです。

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ブータンの建築も日本に劣らず素晴らしいですね。

石を熱してお湯を温めるお風呂に入れてもらったのは良い思い出になりました。

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ブータン最終日は、有名なタクツァン寺院に登りました。

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「タク」=虎、「ツァン」=巣、つまり「虎の巣」という意味の僧院で、ブータンに仏教を運んできたグル・リンポチェが
その8つの変化のうちの一つである忿怒形に姿を変え、虎の背中に乗ってこの場所へやってきて修行をしたという場所。ブータンでも最も尊い僧院だとのこと。

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半日かけての登山になりました。
ブータン訪問の総括として言えることは、
確かに幸福の国なんだということです。

それは国民を見ていてわかりました。

そして国民は、国王を本当に敬愛しています。

恐らく昔の日本人も天皇陛下に対して、このような気持ちをもっていたんだろう
ということを体感できて本当に良かった。
戦後日本では、占領政策により、
天皇は悪だ、権力は悪だ、という刷り込みがなされた結果、
国民は心の拠り所を失い、権威を大切にすることが出来なくなって、自分で自分の首を絞めているように感じます。
お金があれば幸せ(資本主義)
民主主義が最善の政治システム

日本人の多くがそう思っていると感じます。

日本にいればそれを疑うチャンスがありません。

私は、歴史を学んで、疑いを持っていましたが、
ブータンに行ってそれを体感できたことが何よりの学びでした。

そんなブータンも現代化、西洋化のうねりの中で
これから大きな変貌を遂げていくと思います。

ただ、それを良しとしない大人が教育によって
生まれているのがブータンの希望だとも感じました。

我々は日本人ですから、ブータンでノスタルジックな気持ちに浸るだけではいけません。

これからの日本をどう作っていくかが課題です。
ブータンでは昔の日本の片鱗を感じることが出来たので、
温故知新で頑張りたいと思います。

番外編【ブータンのちょっといいお話】

ブータン2日目の夕方

ホテルについてもまだ日が長かったので、
数名でホテルの裏山に登っていました。

いい景色が見られるときいて登ったがそれほどでもなかったので、そろそろ降りようかと、私が後ろを振り返ると、1人のお坊さんが登ってくるのがみえました。

仲間の方を見て降りるかと相談し、
また下をみるとお坊さんの姿見えません。

おかしいなと思って山の斜面をみると
お坊さんが獣道を登っています。

そんなのを見てしまうと私の好奇心に火がついてしまします。

お坊さんを追いかけて獣道を登ると、お坊さんが休んでいました。

私はお坊さんに聞きました。
「この上には何かありますか?」

お坊さん「尼寺がありますよ」

私「私たちもいけますか」

お坊さん「どうぞ」

こうしてお坊さんの後について山を登りました。

道中お話をする中でお坊さんは23歳で
テラという名前だということ、
尼寺には120人の尼さんがいること などがわかりました。

お寺に着くと、何人ものお坊さんが出てきて、
あれっ!尼寺じゃないじゃないか、
と思っていたら、、、

実は全員女性でしたσ^_^;

私たちを案内してくれたのも
お坊さんではなく、尼さんだったんです。

お寺に入れただけでも嬉しかったので、
千手観世音にお参りして帰ろうとしたら、

尼さんたちが
「ジュースを出すから座ってください」と。

ジュースを飲んで帰ろうとすると
「おかわりを持ってきます」

おかわりをいただいて帰ろうとすると
「雨が降っているから傘を用意します」

傘を受け取って帰ろうとすると
「ホテルまで送りますよ」

と言ってくれます。

ブータン人はなんと親切なんでしょう。

暗いし、雨は土砂降りだし、
往復で1時間はかかるし、
さすがに送っていただくのは申し訳ないので、

翌日傘を返しにくることを約束して山を降りました。

見ず知らずの外国人を夜のお寺に入れて、
おもてなしをしてくれる。

見返りを求めない100%の善意に感動しました。

ブータンでは当たり前のことかもしれないですが、
今の日本ではなかなか難しいことです。

ブータンでは、人を疑わないと聞いていましたが、本当でした。

心が洗われます。

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