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神谷宗幣 (かみやソウヘイ)
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電脳空間戦争における「国家の自殺」

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繰り返して言ってきたことですが、

情報戦に勝てる国にしなければ、

民官の努力を一瞬で失う悲劇がたくさん想定されます。

もちろん日本も、全く無策というわけではないと思いますが、

治安維持のレベルではなく、国防のレベルでやって頂きたいです。

列島強靭化の第一歩として!

世論喚起していきたいと思います。

電脳空間戦争における「国家の自殺」

2013/02/24 00:47更新

 ある論文を読んで「えっ?」と思ったが、すぐに得心がいった。論文は、米大統領ら要人警護で知られる「シークレット・サービス」の任務として、大学とのサイバー問題研究・対処を記していた。シークレット・サービスは貨幣偽造捜査・摘発を行う財務省の司法機関として1800年代に発足。クレジット・カード詐欺や個人情報不正入手、不正経理の取り締まり組織なのだから当然だった。

 ただ、米国が心より恐れるのはサイバー空間における「戦争」。真に米国の心胆を寒からしめた契機は、2008年に米国防総省の機密コンピューターから大量の情報が盗まれ、過去最大級の損害を被った事件ともいわれる。詳細は謎だが、前米国防副長官ウィリアム・J・リン三世(59)は、国際誌フォーリン・アフェアーズ(10年10月号)で、こう示唆している。

 ■絶対有利の攻撃側

 《発端は、在中東米軍基地のラップトップに対する、ウイルス汚染されたフラッシュ・ドライブの挿入だった。ドライブ内の有害コンピューター・コードが、中東を担任する米中央軍のネットワークに侵入し、汚染を拡大。コードは気づかれぬままシステムに浸透し「デジタル空間の上陸拠点」より外国諜報機関監理下のサーバーへと、米軍データを転送した…》

 米軍はその後「バックショット・ヤンキー」作戦で対抗していくが、それまでも防御手段構築を怠っていたわけではない。

 実のところ、米国がサイバー攻撃防御演習をした最初は1997年にまでさかのぼる。「エリジブル・レシーバー」作戦。「一般のインターネットを通じ、わずか35人の専門家が、実際に国防総省を含む米国重要施設を攻撃する」シナリオを設定した。専門家は事前に内部情報を知らされてはいなかったが、3カ月の偵察期間を与えられた。

 結果は防御側の惨敗。4万回の侵入に、4000回も応答してしまった。その内、重要施設のシステム本体に36回も侵入された。一方、侵入探知はわずか2件であった。

 惨敗だからこそ、米国は安全保障の要諦を忠実に守った。即(すなわ)ち、敗因分析し→戦訓をあぶり出し→対抗策を構築→再び欠陥を検証。サイクルを止めることなく繰り返す「スパイラル・セオリー」を回し続ける。その過程で、各種演習と組織改編、友好国との連携、それに伴う人員・資金の大量投入…を矢継ぎ早に断行する。それでも、前述2008年のウイルス侵入を防げなかった。衝撃は察して余りある。

 ■中国には「万」の専門要員

 驚くべきは、米初演習の翌1998年、中国は早くも軍情報戦争シミュレーション・センターを創設。99年には、2人の空軍大佐がサイバー戦などの有効性を主唱する「超限戦」を著した。ここに、日米などの「電脳空間戦力」を分析し、自国の遅れた兵器開発技術を日米などより盗み補うべく、あるいは高度に「電脳」化された日米などの軍・インフラ無力化を狙い、着々と侵入・攻撃戦法を編み出している中国の危険な野望を垣間見る。

 以来中国は▽パソコンを意のままに操る「ゴースト・ネット」▽世界のエネルギー産業のパソコンを乗っ取り、データの奪取・改変・追加・削除をやってのける「ナイト・ドラゴン」▽日米や台湾の省庁・軍事施設やチベット関係組織の有する情報を攪乱(かくらん)・強奪する軍総参謀部第3部隷下(れいか)の「陸水信号部隊」など、専門部隊を次々に立ち上げた。その総員数は「万」の大台だと観測される。

 米軍も2010年、サイバー軍を建軍。陸海空軍や海兵隊といった各軍種の防御対策を統合すると共に、攻撃を仕掛けんとする敵システムに逆侵入し、システム破壊で報復するなど攻撃面拡充にも着手した。米国防総省が11年に発表した報告「サイバー戦略」では、被害規模により通常戦力での報復も辞さぬと明記されており、米国は明らかに一部サイバー攻撃を「戦争」と見なしている。

 従って、原子発電所や空港、上水道など重要インフラへのサイバー攻撃にも、軍最高指揮官たる大統領が先制攻撃命令を発動する方針を固めたとされる。

 各国も防御・対抗部隊新編に余念がない。台湾は01年に参謀本部直属部隊を、韓国では03年に国防情報戦対策局を設立。豪州でも1月、国防・司法統括組織創設を決定した。

 ■戦う術を自ら封じる日本

 日本はどうか。政府一丸の対策を進めるべく内閣官房は「内閣情報政策監」を、防衛省は担任部隊を、それぞれ13年度に新設。総務省も外国関係機関とハッキング情報共有・解析に向け提携を始めた。しかし、組織を新編しても、民間のハッカーを採用しても、日本を標的にする害意ある国家には勝てまい。

 攻撃側はハード・ソフトに製造段階で埋め込んだ「スリーパー・セル=隠密細胞」を使い、ある日突然細菌を繁殖させるなど、十分な戦備・時間の蓄積を味方にできる。だが防御側は、事故・天災との識別に時間がかかる。汚染判明時点で壊滅的打撃を受け、原因特定や防御もままならぬ事態に陥っているやもしれぬ。攻撃側が絶対有利なのだ。

 実際、米国はイスラエルと共同開発したウイルス「スタックス・ネット」で10年、イランのウラン濃縮施設を襲い、遠心分離器の5分の1を使用不能に追い込んだ。結果、イランの核開発は2年以上遅れた。サイバー攻撃を受け、度々煮え湯を飲まされてきた米国が、攻撃側有利を実証した具体例でもある。

 この暗号名「五輪ゲーム」は、イスラエル軍によるイラン核施設攻撃の代価として、米国が承認した。もはや、サイバー攻撃は「戦争前夜」ではなく「緒戦」の狼煙(のろし)なのだ。

 ところが、国是「専守防衛」という、軍事的合理性とは対極に位置する、わが国の安全保障体制強化をさいなんできた「内なる敵」が、陸海空での戦闘同様、サイバー分野でも攻勢を阻む。国家ではなく法律を守ることが目的化している日本の場合、目に見える物理的戦禍がない限り、本来サイバー戦争の主力であるべき軍隊=自衛隊に防衛出動も下令されない。

 高度にサイバー空間が発達している半面
、戦う術(すべ)を自ら封じる日本。「国家の自殺」は現実味を帯びていく。

 (政治部専門委員 野口裕之/SANKEI EXPRESS

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