教科書の内容が変わったという記事である。
時代に合わせ内容を変更していくことは有意義だが、
変更された内容を読んでいても、もっと子供たちに教えなければいけないことがあると感じる。
本当にこんな教育でいいんだろうか?
後輩は社会を支える優位な人材になってくれるのか?
表明的な内容変更ではなく、もっと根本の理念を考え直す必要があると痛切に思う。
11年度の教科書検定結果が27日に公表され、来春から主として高校1年生が使う教科書の内容が明らかになった。小中学校の教科書と同様に、脱「ゆとり」が高校でも踏襲され、理科や数学を中心に教える内容が増えた厚い教科書が登場した。また、東日本大震災後の世情を反映し、防災教育に関する記述も各教科に盛り込まれたほか、原則英語だけで指導する授業が始まることを受け日本語の表記を減らした英語の教科書も登場した。【遠藤拓、中川聡子、木村健二】
◇基礎から大学レベルまで
小中学校に続き、高校でも学習指導要領で「理数教育の充実」が掲げられ、理科、数学とも教科書の学習内容は大幅に拡充された。理科系の大学進学を志望する生徒向けに、大学教育の内容を取りこんだ教科書が現れる一方、新設科目「科学と人間生活」や「数学活用」では、基礎から内容を学び直し生徒の興味を高めようと工夫した教科書もあった。
理科、数学とも新学習指導要領が一部で先行実施され、新要領に基づく検定は昨年度に続き2回目。2年分の検定対象となった教科書の平均ページ数は05年度に使われた教科書と比べ理科で2割強、数学で3割増に。内容盛りだくさんの「分厚い」教科書となった。
理科は、学習範囲の上限を決める「歯止め規定」がなくなったことを受け、専門性の高い内容を扱う教科書も登場。「化学」では大学で学ぶとされる浸透圧を表す「ファントホッフの式」を盛り込んだ教科書も。「物理」でも「宇宙の誕生」や「超伝導」が、「生物」では「DNA」や「代謝」が、それぞれ最新の学術研究の成果を反映させた記述に。教科書会社からは「大学で学ぶ内容をどこまで入れるか、なかなか議論がまとまらなかった」「全面的に内容を改めた」などの声が上がる。
数学では、主に理科系の生徒が学ぶ「数学C」がなくなり、理系生徒必修の「数学3」に「平面上の曲線」が移行し、「複素数平面」が復活。「確率分布と統計的推測」は、文科系の生徒も学ぶ「数学B」に移った。「学ぶ内容が増える分、例題と同じ体裁の練習問題を入れたり、身近な話題を盛り込むなど理解しやすい教科書作りを心がけた」とある担当者は言う。また「数学活用」の教科書は、パズルやゲームを使い、生活に密着したテーマを取り上げることで生徒の興味を喚起した。
◇英語大変革 訳読から会話に重点
◇単語数1300→1800、表題や脚注に英文
外国語(英語)は新学習指導要領で、従来の訳読中心からコミュニケーションの道具として使いこなすことに重点が置かれた。科目も従来の「英語1・2」「リーディング」「ライティング」などが再編された。今回は4科目50点が合格した。
4科目は▽情報や考えを的確に理解し伝達する能力を養う「コミュニケーション英語1」▽中学段階の学習内容定着を念頭に置く「コミュニケーション英語基礎」▽事実や意見について論理展開や表現方法を工夫し伝える能力を養う「英語表現1」▽身近な話題でやりとりできることを目指す「英語会話」。
必修の「コミュニケーション英語1」は、最も多い14社27点が発行される。中学で「話す」「聞く」が中心の指導を受けた生徒に配慮し、文法や用語を解説する序章を設けたケースも。
コミュニケーション重視になった結果、どの科目も英語で授業することが基本になり、従来は日本語で表記していた本文の表題や脚注、練習問題を英語にした教科書や本文の音読回数を増やした教科書もみられた。
「教師だけではなく生徒が英語を話す機会を持つよう誘導すべきだと考えた」とある教科書会社の編集者。一方で「目標は英語で授業をすることではなく、英語力の向上。教科書の体裁まで変える必要はない」(別会社の担当者)との意見も。
指導する標準的な単語数は、高校3年間で現行の1300語から1800語に増えた。「コミュニケーション英語1」で求められる新語は400語程度。文科省のまとめでは、今回合格した同科目の新語は平均514語と、400語を大きく上回った。同じく「400語程度」とされた現行の「英語1」で新語は平均353語にとどまっており「脱ゆとり」を印象づけた。
◇各教科に防災教育 地理に新項目、意識の高まりを反映
東日本大震災を踏まえ防災に関係する記述が各教科で充実した。「地理A」で「自然環境と防災」の項目が新たに取り入れられ、5社5点全てに防災教育が盛り込まれた。
ある教科書では日本の地形や気候の特徴に触れ、東日本大震災や阪神大震災、雲仙普賢岳の噴火など、全国各地で起きた自然災害の被害に言及した。その上で「自分の住む地域では海溝型地震と直下型地震、どちらが生じる場合が多いか考えてみよう」「住んでいる地域のハザードマップを閲覧し、どのような災害の危険性があるのか確認してみよう」と投げ掛けた。
1854年の安政南海大地震で大津波が発生した際、和歌山県の浜口梧陵が貴重な稲むら(稲の束)に火をつけて海辺の住民を高台に避難させた逸話をコラムとして取り上げた教科書もあった。
必修教科の「情報」では「社会と情報」(6社8点)「情報の科学」(4社5点)の2科目全てで、防災と情報システムを関連づけて扱った。緊急地震速報の仕組みを紹介したり、災害時にデマを広げるチェーンメールに注意を促す記述が目立った。
「保健体育」は全2社3点で従来同様、災害を安全な生活を脅かす事態と位置づけ、防災や防犯に向けた社会全体の取り組みを紹介した。「家庭基礎」(6社10点)と「家庭総合」(6社6点)の全教科書では、住環境の安全を確保する視点から防災を取り上げた。
中央教育審議会は3月、防災教育について将来的な教科化も含めた検討を求める答申を平野博文文科相に提出したが、教科書は一足先に防災意識の高まりを、内容に反映させたといえそうだ。
◇時事問題で検定意見 自衛隊派遣、君が代斉唱
時事問題の記述を巡り、文部科学省は国の見解に沿った検定意見を繰り返してきたが今回も同省と
教科書会社の細かいやりとりが見られた。
「現代社会」のある教科書は、テロ対策特措法により「初めてアフガニスタンの戦地へ自衛隊が派遣され」と記述。「誤解するおそれ」との検定意見が付けられ、「アフガニスタンでのアメリカなどの活動を支援するために自衛隊が派遣され」と修正。「世界史A」では、自衛隊のイラク派遣について「復興支援の名目で」と説明したが、検定意見が付き「『復興支援』を目的に」と改めた教科書もあった。
国会審議の段階で、「君が代斉唱の強制はしない」との見解を政府が表明した国旗・国歌法。「日本史A」のある教科書が「現実はそうなっていない」と記述したが「説明不足で誤解するおそれ」と検定意見が付き、「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」と改め、容認された。文科省の担当者は、大阪府で教職員に君が代斉唱を義務付ける条例が成立したことなどに触れ「強制という用語自体に違法性の意味があるわけではなく(修正された表記は)必ずしも誤りではない」と説明した。
◇新聞活用、NIEに広がり
授業で新聞を活用するNIE(教育に新聞を)が広がりを見せる中、新聞を題材にした学習が各教科に盛られた。「国語総合」のある教科書は「新聞に投書してみよう」と題し、新聞の投書欄を3日分読んで印象に残ったものを紹介し合い、実際に投稿することを課題にした。別の教科書では限られた字数とスペースで事実を伝える新聞の手法を考え、感想を話し合う学習を設けた。
「社会と情報」の教科書では、新聞で見かけたニュースについて別の新聞やテレビ、インターネットといった複数の情報源で確かめ、比較する学習を取り上げた。「数学活用」でも「新聞に現れる数値」の項目で、記事に登場する数値の例として「偏差値」「エンゲル係数」などを挙げ、統計を学ぶきっかけとして、身近にある新聞を用いた。
◇AKB、辻井さん 話題の人物も
音楽やスポーツの世界で活躍するタレントや選手、お茶の間で人気だったテレビ番組の主題歌も、教科書の題材として取り上げられた。
人気アイドルグループのAKB48は「音楽1」に、日本のポピュラー音楽にスポットを当てたコーナーで登場。「コミュニケーション英語1」ではフランス公演の写真が掲載された。
「バン・クライバーン国際ピアノコンクール」で優勝した全盲のピアニスト、辻井伸行さん=同<2>=は「コミュニケーション英語1」の別の教科書が取り上げた。フィギュアスケートの現役高校生、村上佳菜子選手=同<3>=は「日本史A」で、世界で活躍する日本人の一人として紹介された。
昨年12月に42年続いたテレビ放映を終えた時代劇「水戸黄門」=同<4>=の主題歌「あゝ人生に涙あり」も「音楽1」の教科書で和楽器アンサンブルの題材として復活した。
◇現代社会に「MOTTAINAI」
ノーベル平和賞受賞者で、11年9月に亡くなったワンガリ・マータイさんが毎日新聞と推進したMOTTAINAI(もったいない)キャンペーンの理念が「現代社会」の教科書で詳しく取り上げられた。
「『もったいない』を世界へ」と題したコラムで、マータイさんがケニアの環境破壊に心を痛め、貧しい女性を中心に植林を進める「グリーンベルト運動」を始めた半生を紹介。05年に来日した際、尊敬の心の意味も込められた日本語の「もったいない」に着目し、国際語として世界に広げようと決意したことを説明した。教科書会社の担当者は「身近な話題から自然環境にかかわりの深いことを考えてもらいたい」と話している。
==============
◆理科・数学新たに盛り込まれた内容
<理科>
時代劇「水戸黄門」の黄門様ご一行(写真4)
◇物理
「電子と光」「原子と原子核」(選択項目から必修に変更)
◇化学
「高分子化合物の性質と利用」(選択項目から必修に変更)
◇生物
「生物の進化と系統」「生態と環境」(選択項目から必修に変更)
「DNAの増幅(PCR法)」「DNAの塩基配列の解析法」(発展的な学習内容から指導要領の範囲内に変更)
<数学>
◇数学B
「確率分布と統計的推測」(数学Cから移行)
◇数学3
「平面上の曲線」(数学Cから移行)
「複素数平面」(89年学習指導要領から復活)
==============
■ことば
◇教科書検定
教科書が児童・生徒の手に渡る前に、学校で使われるのが適切かどうかを文部科学相が審査する制度。1947年制定の学校教育法で定められ、小中高校のそれぞれの教科書でおおむね4年ごとに実施。合格しないと教科書として認められない。
民間の出版社が学習指導要領や教科書検定基準をもとに著作・編集し、検定を申請。文科省の教科書調査官が調査し、文科相が教科用図書検定調査審議会に諮問する。
審査の結果、修正すべき点がある場合、審議会は検定意見書を各出版社に送付。出版社は修正表を提出し、2次審査を受ける。検定意見に異議があれば、出版社は意見申し立てもできる。文科相は審議会の答申を受けて合否を決定する。
合格した教科書について、公立高校の場合は学校ごとに選定し、都道府県教委が最終決定する。国立・私立校は校長が決定。検定意見書や修正表など検定に関係する資料は5~7月、全国9会場で順次公開される。
毎日新聞 2012年3月28日 東京朝刊