2月の東京での行政視察の際、世田谷区の放課後事業(BOP)の視察をさせていただきました。その折に
「世田谷区教育ビジョン」なるものを紹介していただき、
世田谷区は総合的な教育計画の下で方向性を持って個々の事業を進められていることを知りました。それは、
まさしく私が吹田市で取組んでいきたい教育改革のあり方であったのです。そして、その世田谷区では、特区申請をし、区独自の教科書まで作り
「日本語」という教科の指導をしていることも2月の視察の際に知りました。
私は、小学校英語の推進を訴えておりますが、英語以上に日本語や日本文化、日本の歴史を子供達に学んで欲しいと思っています。
英語が使えるだけでは、絶対に国際人にはなれませんし、日本の将来を支える人材にもなりえないと考えるからです。こうした思いから、私は
「日本語」という教科の指導に大変興味を持ち、2ヶ月前に訪れたばかりの世田谷区の学校を再度視察してきました。
参考:世田谷区教育ビジョンがめざす子供像
1 人の喜びを自分の喜びとし、人の悲しみも自分の悲しみとすることのできる子供
2 生きることを深く愛し、理想を持ち、自らを高めようとする志をもつ子供
3 日本の美しい風土によって育まれ伝えられてきた日本の情操や、文化・伝統を大切にし継承する子供
4 深く考え、自分を表現することができ、多様な文化や言語の国際社会で、世界の人々と共に生きることのできる子供
視察させていただいたのは、世田谷区立船橋小学校です。平成16年に改築されたばかりの学校で、
大変清潔感のある素晴らしい校舎でした。
残念ながら吹田にはここまで綺麗な学校はありません。
新学期のお忙しい最中、訪問を受けた下さった小島校長。
誠意のある対応と丁寧な説明をしていただきました。
学校の中庭=「野鳥の森」です。
当校は、「愛鳥モデル校」で、愛鳥活動を通して自然愛護の心情を養っています。
ランチルームです。
給食は完全な民間委託となっており、ランチルームを活用した給食活動も民間の業者さんがしっかりサポートしてくれるとの事です。
陶芸室です。
児童だけでなく、地域の方々も利用されています。
多目的ホールです。
児童の学年集会や放課後活動などに利用する他、週末は地域の方々に開放しているので、利用度は格別だそうです。
開放教室です。
休み時間などは同学年の児童がクラスの壁を越えて遊んでいました。
授業中、隣のクラスの声などはそんなに気にならないとのこと。実際には始めて見たので、衝撃でした。
参観させた頂いた「日本語」の授業です。
テーマは松尾芭蕉の俳句でした。指導案がしっかりしていて、
1時間で児童が言葉から情景や作者の心情を汲み取る様子が良く分かりました。
論語の授業なども見てみたいと感じました。
平成16年に特区申請をしてから2年間かけて作られた世田谷区オリジナルの日本語の教科書。小学校で3冊、中学校では哲学、表現、
日本文化の3冊があります。
私が読んでも勉強になる内容です。以下、強化のねらいと内容を。
〔ねらい〕
1 深く考える児童・生徒を育成する
2 自分を表現する能力やコミュニケーション能力を育成する
3 日本の文化や伝統に対する理解を深め、それらを大切にする態度を育成する。
〔内容〕
小学校1,2年ー鉛筆の持ち方、俳句、漢詩、和歌、詩、短歌、論語、伝統のあそび、民話、なぞなぞ
小学校3,4年ー年中行事、新聞の読み方、地名の由来、郷土カルタ、百人一首、古文(枕草子)俳句、漢詩、和歌、詩、短歌、
論語
小学校5,6年ー敬語、伝統文化、舞台芸術(能楽、狂言、歌舞伎など)漢字の成り立ち、郷土文化、古文(平家物語、徒然草、方丈記)、
俳句、漢詩、和歌、詩、短歌、論語
哲学ー日本の自然、生きること、礼儀、論理、自然、心のよりどころ、規則やルール、働くということ
表現ー対話の基礎、メディアリテラシー、自己表現、言葉と文化、レポートの書き方
日本文化ー食べる(日本の食文化)、着る(着物)、楽しむ(歌舞伎)、住む(建築文化、すまい)、作る(人間国宝、ものづくり)
〔感想〕
まず、学校設備の充実度には正直愕然とした。明るくて綺麗な学校は間違いなく児童の心を明るくする。なぜなら、
数時間訪問した私がそうなったからである。
日本語の指導に関しては、教科書を拝見し、小学生にここまで教えるのか、というのが第一印象である。
大人の私が読んでも勉強になる内容である。しっかり学べばかなりの日本文化や言葉に対するかなりの教養がつくであろう。しかし、
教える方は大変だ。指導案を教育委員会でつくり、教員に配って、全体の指導に1ヶ月先駆けてモデル校で毎月研究授業を行っているとの事。
先生の入れ替わりもある中で、大変な苦労であると思うが、そうした取り組みがあってのハイレベルな指導に繋がるのだと思う。
また、児童の能力を侮ってはいけないと感じた。高度な内容でもしっかり付いてくるのである。
かつて吉田松陰は11歳で藩主に講義をしたとのこと。伸ばせば伸びる者は伸びるのである。
その潜在能力を現代の公教育は押さえつけているのではないか。
日本語の教科書やカリキュラムができるまでの説明を区の職員の方にしていただいた。説明を受けていて最初に感じたことは、
自分達の取り組みに自信と誇りを持っていらっしゃるということだ。作るまでの苦労はあったが、なんとかここまできた、
という思いがひしひしと伝わってきた。大きなビジョンをつくり、個々の取り組みを作り上げていく。膨大な仕事だと思うが、
そうしたことをやろうといい出したのは、教育委員会の一人の職員の方だったとのこと。それが胸に深く残った。一人では何もできないが、
誰かが言い出さなければ何も始まらない。一人の大きな情熱が、周囲を巻き込み、大きな流れをつくるのであろう。
学校施設の充実度、教科「日本語」内容、教育改革の取り組みなど、どれも大変参考になる有意義な視察であった。